研究概要

脳腫瘍エコシステム生物学(教授・川内大輔)

私たちの研究グループは、脳腫瘍を手がかりとして、脳がどのように形成され、維持され、そして病気へと変化するのかを理解することを目指しています。

脳は、神経細胞、グリア細胞、血管、免疫細胞、細胞外環境が高度に組み合わさった、非常に複雑な臓器です。その形成過程では、細胞の分裂、分化、移動、接着、神経回路の形成が、遺伝子プログラムによって精密に制御されています。しかし、このプログラムが破綻すると、脳細胞の異常な増殖や、周囲の脳内環境との不適切な相互作用が生じ、脳腫瘍という重篤な疾患につながります。

したがって、「脳腫瘍がどのように生じるのか」を明らかにすることは、「正常な脳がどのように作られるのか」を理解することと深く結びついています。私たちは、脳腫瘍を単なるがん細胞の集まりとしてではなく、発生中あるいは成熟した脳の中で、周囲の細胞や神経活動、細胞外環境を利用しながら進展する疾患として捉えています。このような考え方に基づき、私たちは「脳腫瘍エコシステム生物学」という新しい視点から研究を進めています。

特に私たちは、小児脳腫瘍と悪性グリオーマに重点を置いて研究を行っています。小児脳腫瘍は、脳の発生過程と密接に関係しており、正常な神経発生プログラムが腫瘍によって再利用、あるいは“ハイジャック”されることで発生すると考えられます。一方、成人の悪性グリオーマは、成熟した脳の神経活動や周囲の脳内環境と相互作用しながら進展します。つまり、脳腫瘍を理解するためには、がん細胞の遺伝子変異だけでなく、腫瘍が存在する「脳という環境」そのものを理解する必要があります。

近年のゲノム解析技術の発展により、脳腫瘍に特徴的な遺伝子変異や融合遺伝子が数多く同定されてきました。しかし、それらの異常が、どの細胞で、どの発生段階で、どのような脳内環境の中で腫瘍形成を引き起こすのかについては、まだ多くの謎が残されています。私たちの研究では、ヒト脳腫瘍で見つかった遺伝子異常が、正常な脳細胞をどのように腫瘍化させるのか、またその過程で細胞接着、神経活動、カルシウムシグナル、転写制御、エピゲノム、代謝環境などがどのように関与するのかを、多角的に解析しています。

私たちの研究室では、マウス遺伝学、分子生物学、生化学、病理組織解析に加えて、胎仔脳への遺伝子導入、脳腫瘍モデル、患者由来腫瘍モデル、in vivoイメージング、神経活動操作、シングルセル解析、エピゲノム解析などを組み合わせて研究を行っています。さらに、脳内のpH、乳酸、グルタミン酸などの環境変化を捉える新しい計測技術や、AI・数理解析を取り入れることで、脳腫瘍がどのような環境の中で生き残り、増殖し、治療抵抗性を獲得するのかを明らかにしようとしています。

これらの研究は、基礎生物学としての脳形成機構の理解に貢献するだけでなく、新しい治療法の開発にもつながる可能性があります。私たちは、腫瘍形成に重要なシグナル経路や細胞間相互作用を同定し、それらが治療標的となり得るかを腫瘍マウスモデルや薬理実験を用いて検証しています。脳腫瘍は依然として治療が難しい疾患ですが、その難しさの一因は、腫瘍細胞が脳内環境と密接に結びついていることにあります。だからこそ、脳腫瘍を「脳の中で生きるがん」として理解することが、新しい治療戦略を生み出す鍵になると考えています。

私はこれまで、ドイツがん研究センター、国立精神・神経医療研究センターで研究チームを率い、2024年4月より名古屋市立大学大学院医学研究科で新たに研究室を立ち上げました。日本国内では脳腫瘍の基礎研究に取り組む研究者はまだ多くありませんが、私たちは国内外の研究室と連携しながら、国際的な視点で脳腫瘍研究を進めています。

川内研究室では、脳腫瘍、神経発生、がん生物学、神経科学、エピゲノム、イメージング、データ解析に興味を持つ大学院生、ポスドク、若手研究者を歓迎しています。脳腫瘍研究は、医学、生命科学、神経科学、情報科学が交差する非常に挑戦的で面白い分野です。まだ解かれていない問いが数多く残されており、若い研究者が新しい発見を生み出す余地が大きくあります。

研究内容に興味のある方、大学院進学や研究参加を考えている方、将来的に脳腫瘍研究で海外留学を目指したい方は、ぜひお気軽にご連絡ください。

一緒に脳腫瘍研究の未来を切り拓いていきましょう。

大学院生のみなさんへ

「脳を知り、がんを解き、未来の治療をつくる」

脳腫瘍研究は、がん研究であると同時に、脳そのものを理解するための研究でもあります。私たちの研究室では、小児脳腫瘍や悪性グリオーマを中心に、脳腫瘍がどのように発生し、どのように脳内で生き残り、増殖し、治療抵抗性を獲得するのかを研究しています。特に、神経発生プログラム、エピゲノム、神経活動、細胞接着、腫瘍微小環境 に注目し、脳腫瘍を「がん細胞だけの病気」ではなく、「脳という特殊な環境の中で進展する疾患」として捉えています。

脳の細胞は、発生過程で分裂し、分化し、移動し、神経回路を形成していきます。この精密なプログラムが破綻したとき、あるいは腫瘍細胞によって再利用されたとき、脳腫瘍が生じることがあります。また、脳腫瘍は周囲の神経細胞やグリア細胞、血管、細胞外環境と相互作用しながら増殖します。つまり、脳腫瘍を理解するためには、遺伝子変異だけでなく、腫瘍が存在する「脳内エコシステム(生態系)」全体を見る必要があります。

私たちは、ヒト脳腫瘍で見つかった遺伝子異常がどのように正常な脳細胞を腫瘍化させるのか、神経活動やカルシウムシグナルが腫瘍の増殖をどのように制御するのか、細胞接着やエピゲノム変化が治療抵抗性にどう関わるのか、といった未解明の問いに取り組んでいます。これらの研究を通じて、脳腫瘍の本質的な理解と、新しい治療標的の発見を目指しています。

大学院での研究では、最新の論文を読み、そこから問いを見つけ、仮説を立て、実験や解析によって検証していきます。研究テーマは、分子病態の基礎研究から、動物モデルを用いた病態解析、患者由来腫瘍モデルを使った治療標的探索まで幅広く展開しています。自分の関心や将来の目標に応じて、脳腫瘍、神経発生、がん生物学、神経科学、エピゲノム解析、イメージング、データ解析など、さまざまな方向に研究を深めることができます。

本研究室では、マウス脳腫瘍モデル、胎仔脳への遺伝子導入、患者由来腫瘍モデル、組織病理解析、シングルセル解析、エピゲノム解析、生体内イメージング、神経活動操作など、世界レベルの研究手法を学ぶことができます。また、国内外の研究室との共同研究を通じて、国際的な研究の進め方に触れる機会もあります。

私たちが大切にしているのは、単に実験技術を身につけることだけではありません。重要なのは、自分で問いを立て、考え、失敗から学び、もう一度挑戦する力です。大学院での研究を通じて、「研究者として独り立ちする力」「未来の医療を切り拓く視点」 を育ててほしいと考えています。

脳腫瘍研究には、まだ解かれていない重要な問いが数多く残されています。だからこそ、若い研究者が新しい発見を生み出す余地が大きい分野です。好奇心を持ち、粘り強く考え、未知の問題に挑戦したい人を歓迎します。

脳を知り、がんを解き、未来の治療をつくる。その挑戦に、私たちと一緒に取り組んでみませんか。

脳腫瘍オミクス・情報生物学(助教・チャップマン オーウェン)

アルツハイマー病の予防・治療法解明 (連携教員・准教授・鄒鶤

超高齢社会に突入した日本では、認知症患者数は増加の一途をたどり、特に認知症の60%前後を占めるとされるアルツハイマー病の予防・治療法の確立は、急務となっている。我々のチームでは、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患の病態解明を行い、分子メカニズムに介入する形で予防・治療法解明のための研究を行っている。