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- クロマチン制御因子の小脳発生と髄芽腫形成における役割の解析
- 脳腫瘍特異的な融合遺伝子の発がん機能の解析
- 脳腫瘍と脳内微小環境の新研究
- アルツハイマー病発症機構におけるアミロイド蓄積およびAβ代謝(産生・分解)制御メカニズムの解明
クロマチン制御因子の小脳発生と髄芽腫形成における役割の解析
近年の次世代シーケンス技術の目覚ましい進歩により小脳に生じるがん「髄芽腫」の分子解析は小児脳腫瘍の中でも突出して理解が進んでいますが、その特徴の一つであるクロマチン制御因子の変異やそれに伴うエピゲノム変化が腫瘍形成にいかに関わっているのか、その生物学的意味は完全に理解できていないのが現状です。本研究テーマではマウス遺伝学とゲノム編集技術を駆使してクロマチン制御因子の正常な小脳発生における役割を理解するとともに、その変異が腫瘍形成にどのような影響を与えるかを解析しています。
参考原著論文: Zuckermann et al. Nat Commun. 2015; Feng et al. Nat Commun. 2017; Kutcher et al. Genes Dev. 2020; Shiraishi et al. Dev Cell 2024
脳腫瘍特異的な融合遺伝子の発がん機能の解析
がん融合遺伝子はゲノムの不安定性が原因で生じるがん特異的な産物で、様々ながんの誘導や進展において非常に重要な役割を果たしていることが示唆されています。また2016年のBlue Ribon Panelにおいて優先して理解すべき小児がんの形成メカニズムとして着目されてきました。本研究では、脳腫瘍で特異的に発現する融合遺伝子が、どのように脳腫瘍形成に関わり、がんシグナルを産み出しているのかを生体内で明らかにし、その分子機構の側面から新規の治療法を提案・探索しています。
参考原著論文: Pajtler et al. Nat Commun. 2019; Zheng et al. Cancer Discov. 2021
脳腫瘍と脳内微小環境の新研究
がんは、自分の周りの細胞を取り込むことで、生き延びたり増えたりするための力を手に入れ、さらに悪性化して広がっていきます。脳腫瘍も例外ではなく、さまざまな神経細胞と関わり合うことで、脳に特有のがんの「微小環境ネットワーク」を作ることが明らかになってきました。この仕組みを理解するためには、実際の体の中に近い状態でがんがどのように広がるかを調べることが必要です。
私たちの研究室では、これまでに開発した小児脳腫瘍のモデルを活用して、このメカニズムを解明するための研究を進めています。現在、東京科学大学の上阪直史教授や、フランスのキュリー研究所のOlivier Ayrault博士との共同研究により、「ヒトのサンプルを使ったオミクス解析」と「脳腫瘍モデル」、そして「神経科学」の専門知識を組み合わせ、新しい研究分野を切り開いています。
参考原著論文: Forget et al. Cancer Cell 2018
アルツハイマー病発症機構におけるアミロイド蓄積およびAβ代謝(産生・分解)制御メカニズムの解明
超高齢社会に突入した日本では、認知症患者数は増加の一途をたどり、特に認知症の60%前後を占めるとされるアルツハイマー病の予防・治療法の確立は、急務です。我々のチームでは、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患の病態解明を行い、分子メカニズムに介入する形で予防・治療法解明のための研究を行っています。
(1)アルツハイマー病の発症には、アミロイドβ蛋白(Aβ)の脳内蓄積が深くかかわっていると考えられています。我々は、世界に先駆けてAβ42は強い毒性を発揮するが、Aβ40は神経保護作用を持つことを見出しました。すなわち、(i) Aβ42は強い凝集性を持つため神経毒性を発揮するが、単体で存在しうるAβ40は遷移金属をキレートして活性酸素の発生を抑制し、活性酸素による神経細胞死を抑制し、(ii) 単体Aβ40はAβ42と結合することにより、Aβ42のβ-sheet形成を阻害し、Aβ42の重合体形成・線維化を抑制します。その結果、単体Aβ40には、Aβ42のもつ神経毒性を抑制する作用があることを明らかになりました。